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会社情報 ニュースリリース

2025年6月20日

ヒト臨床試験により、
「乾燥ビール酵母」と「パン酵母由来の酵母細胞壁」の腸内環境改善効果を確認
〜2025年5月25日 第79回日本栄養・食糧学会大会にて発表〜

 アサヒグループ食品株式会社(社長:川原浩 本社:東京都墨田区)と株式会社メタジェン(社長:福田真嗣 本社:山形県鶴岡市)は、「乾燥ビール酵母」と「パン酵母由来の酵母細胞壁」についてヒトが摂取した際の腸内への影響を評価し、それぞれ腸内環境を改善する効果があることを確認しました。この研究成果は、2025年5月25日に第79回日本栄養・食糧学会大会(愛知県名古屋市)(2025年5月23日〜25日)で発表されました。本研究については今後も詳細なメカニズムの解明を進めるとともに、引き続き、酵母由来成分のヒトに対する健康維持についての研究を進める予定です。

<以下詳細内容> 注釈の用語解説は最後にまとめて記載しています。

■研究背景

 アサヒグループではビール製造工程で発生する副産物である「乾燥ビール酵母」と、酵母エキス製造過程で得られる副産物である「パン酵母由来の酵母細胞壁」の有効活用に向け、様々な機能性研究を行っています。酵母に含まれるグルカンやマンナンなどの水溶性食物繊維は大腸に到達すると、腸内細菌によって利用されこれらの菌を増やすことが報告されています。中でも一部の腸内細菌が作り出す短鎖脂肪酸※1は、腸内環境を良好にするだけでなく、様々な臓器においてヒトの健康維持に繋がることが示唆されています。このような背景から、食物繊維を含む「乾燥ビール酵母」と「パン酵母由来の酵母細胞壁」を対象とし、腸内フローラ※2および短鎖脂肪酸に対する作用を評価しました。

■研究方法

 日本人の健常な成人男女39名を、(1)酵母素材・プロバイオティクス※3素材を含まない対照食品(プラセボ群)、(2)パン酵母由来酵母細胞壁を含む食品(YCW群)、(3)乾燥ビール酵母とプロバイオティクス素材を含む食品(YC+PRO群)をそれぞれ摂取させる群に分け、ランダム化プラセボ対照二重盲検並行群間比較試験を実施しました(プロバイオティクス素材には、アシドフィルス菌、フェカリス菌、ビフィズス菌の3種乳酸菌を使用)。試験食品を4週間継続摂取させた時の腸内環境(便中細菌叢、便中代謝物質)、排便状況に与える効果を評価しました。

図1. 試験スキーム

■研究結果

便中の短鎖脂肪酸や細菌叢への影響

 摂取前後の変化量を用いた群間比較では、YCW群はプラセボ群と比べてCollinsellaおよび[Eubacterium] ventriosum groupの相対存在比が有意に増加しました。また、YC+PRO群はプラセボ群と比べてプロピオン酸が多い傾向にあることが分かりました。

 Collinsellaは、胆汁酸の一種であるウルソデオキシコール酸を産生する菌として報告されています。ウルソデオキシコール酸はCOVID-19感染の予防に寄与する可能性が報告されています(参考文献1)[Eubacterium] ventriosum groupは、酪酸産生経路における主要遺伝子を所持することが知られているほか(参考文献2)、健康長寿や心肺機能に関連する(参考文献3)ポリアミンの合成酵素を持つことも示唆されています(参考文献4)

図2. 試験食品摂取による便中短鎖脂肪酸量の変化(摂取前後の変化量)
#p < 0.10, Mann-WhitneyのU検定 (vs.プラセボ群)

図3. 試験食品摂取による便中細菌相対存在比の変化(摂取前後の変化量)
*: p < 0.05, Mann-WhitneyのU検定 (vs.プラセボ群)

サブグループ解析

 今回評価した素材の腸内環境に及ぼす影響をより理解するため、解析対象者の摂取開始時点の便中短鎖脂肪酸量(酢酸、プロピオン酸、酪酸)について、それぞれ中央値を算出し、摂取開始時点の短鎖脂肪酸量が中央値より少ない被験者を対象として、以下3つのグループに分けて解析を行いました。

(a) 摂取開始時の酢酸が相対的に少ない集団

 摂取前後の変化量を用いた群間比較の結果、YCW群ではプラセボ群と比べてParabacteroides属の相対存在比が高い傾向を示し、酪酸産生菌である[Eubacterium]hallii groupの相対存在比は有意に増加しました。Parabacteroides属の中には抗炎症作用や抗肥満作用が報告されている菌種もあります(参考文献5)

図4. サブグループ解析;試験食品摂取による便中細菌相対存在比の変化(摂取前後の変化量)
*: p < 0.05, #:p < 0.10, Mann-WhitneyのU検定 (vs.プラセボ群)

(b) 摂取開始時のプロピオン酸が相対的に少ない集団

 摂取前後の変化量を用いた群間比較の結果、YCW群ではプラセボ群と比べてプロピオン酸が高い傾向を示しました。また、プラセボ群では摂取前後で酪酸産生菌であるRuminiclostridium 5の相対存在比が減少していたものの、YCW群ではその減少が有意に抑制されました。さらにYC+PRO群では、摂取前後で排便量が有意に増加しました。

図5. サブグループ解析;試験食品摂取による便中短鎖脂肪酸量・便中細菌相対存在比の変化(摂取前後の変化量)、主観評価の摂取前後変化
*: p < 0.05, #:p <0.10, Mann-WhitneyのU検定 (vs.プラセボ群)
†: p < 0.05, Wilcoxonの符号順位検定(vs.摂取前)

(c) 摂取開始時の酪酸が相対的に少ない集団

 プラセボ群では摂取前後で[Eubacterium]eligens groupの相対存在比が減少していたものの、YCW群ではその減少が有意に抑制されました。YC+PRO群では、プラセボ群と比べて、プロピオン酸が有意に増加しました。また、摂取前後では、排便量が有意に増加しました。

 [Eubacterium]eligens groupは、in vitro試験にて、免疫反応の過剰な活性化を抑制する抗炎症性IL-10(インターロイキン-10)の産生を促進すると報告されています(参考文献6)

図6. サブグループ解析;試験食品摂取による便中短鎖脂肪酸量・便中細菌相対存在比の変化(摂取前後の変化量)、主観評価の摂取前後変化
*: p < 0.05, Mann-WhitneyのU検定 (vs.プラセボ群)
†: p < 0.05, Wilcoxonの符号順位検定(vs.摂取前)

まとめ

・パン酵母由来酵母細胞壁を含む食品を摂取した群(YCW群)

 パン酵母由来酵母細胞壁を4週間継続摂取後には、対照食品を摂取した群と比べて酪酸産生菌([Eubacterium] halli group, [Eubacterium] eligens group, Ruminiclostridium 5)や、酪酸産生経路に関与する[Eubacterium] ventriosum groupの相対存在比が有意に高い値を示しました。また、炎症抑制や抗肥満に寄与する報告があるParabacteroidesはプラセボ群と比べて高い傾向を示しました。

 過去のヒト便を用いたin vitro試験でも酪酸産生菌(Agathobacter, Anaerostipes, Butyricicoccus, Faecalibacterium, Lachnoclostridium, Roseburia)増加効果を確認しており、パン由来酵母細胞壁が酪酸産生菌の増殖を促進する働きがあることについて、今回のヒト試験でも再現性を確認することができました。

・乾燥ビール酵母とプロバイオティクス素材を含む食品を摂取した群(YC+PRO群)

 乾燥ビール酵母とプロバイオティクス素材を含む食品を4週間継続摂取後には、対照食品を摂取した群と比べてプロピオン酸が有意に高い値を示し、排便量が有意に増加しました。

■今後の展望

 今回実施したヒト試験では、パン酵母由来の酵母細胞壁、乾燥ビール酵母とプロバイオティクス素材の摂取により、酪酸産生菌の増加や短鎖脂肪酸量の増加が確認され、in vitro系での評価と同様、ヒト摂取時においても酵母素材がプレバイオティクス※4として機能することが示され、両素材ともに腸内環境改善効果を有する可能性が示唆されました。短鎖脂肪酸には、腸内環境を良好にするだけでなく、様々な臓器においてヒトの健康維持に繋がることが報告されています(図7)。今後は、酵母素材のヒト体内での代謝機構や、有効成分の特定を目指していきます。

図7. 過去に報告されている短鎖脂肪酸の作用(参考文献7,8)

■用語解説

  • ※1:短鎖脂肪酸
    腸内細菌によって作られる有機酸のうち、炭素の数が6個以下のものを指す。腸内細菌研究においては酢酸、プロピオン酸、酪酸のみを指すことが多い。腸内細菌が水溶性食物繊維を分解することで産生される。先行研究において蠕動運動促進・免疫機能制御・持久力向上などへの寄与が報告されている。
  • ※2:腸内フローラ
    ヒトや動物の腸内にいる多種多様な腸内細菌全体。腸内では腸管の表面がびっしりと腸内細菌で埋め尽くされており、植物が群生している叢(くさむら)に例えられることから、腸内フローラ(細菌叢)と呼ばれている。
  • ※3:プロバイオティクス
    適切な量を投与した際に、宿主に健康上の利益をもたらす生きた微生物。
  • ※4:プレバイオティクス
    大腸に常在する有用な細菌を増殖させたり、活性を変化させたりすること、または宿主に有益な影響を与えることにより、宿主の健康を改善する食品成分。

■参考文献

  • (1) Hirayama et al. (2021) Intestinal Collinsella may mitigate infection and exacerbation of COVID-19 by producing ursodeoxycholate. PLOS One, 16(11).
  • (2) Vital et al. (2017) Colonic Butyrate-Producing Communities in Humans: an Overview Using Omics Data. mSystems, 2(6).
  • (3) Madeo et al. (2018) Spermidine in health and disease. Science, 359(6374).
  • (4) Kurihara. (2017) Establishment of a high through-put cultivation system for dominant species of human gut microbes and the importance of experiments including culture of bacteria in the post-microbiome era. Microbial Resources and Systematics, 33(2).
  • (5) Yanlong Cui et al. (2022) Roles of intestinal Parabacteroides in human health and diseases. FEMS Microbiology Letters, 369(1).
  • (6) Wing Sun Faith Chung et al. (2017) Prebiotic potential of pectin and pectic oligosaccharides to promote anti-inflammatory commensal bacteria in the human colon. FEMS Microbiology Ecology, 93(11).
  • (7)Shimizu et al. (2019) Regulation of host energy metabolism by gut microbiota-derived short-chain fatty acids. Glycative Stress Research, 6(3).
  • (8)安藤 朗 (2015) 腸内細菌の種類と定着:その隠された臓器としての機能, 日本内科学会雑誌, 104(1).

■学会概要

  • 名称:第79回日本栄養・食糧学会大会
  • 日時:2025年5月23日(金)〜25日(日)
  • 会場:名古屋大学 東山キャンパス
  • 発表演題タイトル:「酵母素材含有食品が腸内環境および排便状況に与える影響―ランダム化プラセボ対照二重盲検並行群間比較試験―」
  • 発表者:橋 夢月1、増田 功1、畑中 美咲1、田頭 素行1、中畔 稜平2、門脇 里恵2、野間口 達洋2
    (1アサヒグループ食品株式会社、2株式会社メタジェン)

■アサヒグループの酵母の取り組み:アサヒ酵母サイエンスプロジェクト

アサヒ酵母サイエンスプロジェクト

私たちは、人びとの健康に役立つ酵母のメカニズム解明、および情報発信に取り組んでいます。
https://www.asahigroup-japan.co.jp/material/asahi-yeast-science-project/

本件に関するお問合せ先

アサヒグループホールディングス株式会社 コーポレート・コミュニケーション部門
電話: 03‐5608‐5126

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