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発酵の基礎知識 発酵食品って、どんな食べ物? なぜおいしいの? 発酵の基礎知識 発酵食品って、どんな食べ物? なぜおいしいの?

 発酵食品は、食品に麹菌や乳酸菌といった微生物が活動し、発酵することによってできあがります。私たち人間の味覚には、甘み、苦味、塩味、酸味のほかにもうひとつ「うまみ」があり、それを深く感じられるのが発酵食品。お味噌汁を飲んで「おいしい〜」と、心がじんわりほっこりするのは、発酵した味噌がうまみを存分に発揮しているから。微生物が食材に含まれるでんぷん質やたんぱく質を分解し、うまみ成分のアミノ酸や糖分を生成することで、独特のうまみをもたらします。ここでは、発酵にまつわる基本的な情報と、発酵食品を生み出す微生物について、特徴や豆知識などをご紹介します。

発酵をつかさどる、
3大微生物

 カビの胞子や酵母、細菌の細胞は、いずれも10μm(マイクロメートル)以下と小さく、目で見ることはできませんが、これらの働きなくして発酵食品は生まれません。

【糸状菌(カビ):麹菌 紅麹菌 カツオブシ菌 など】【酵母菌:パン酵母 ビール酵母 清酒酵母 など】【細菌:乳酸菌 酢酸菌 納豆菌 など】

私たちの食生活に直結する、
代表的な5つの微生物

 パンやヨーグルト、味噌汁、漬け物など、朝昼夕、食卓には常に発酵食品があるといってもいいほど、私たちは毎日発酵食を食べています。なかでも身近な発酵食品にかかわる5つの微生物、麹菌・酵母菌・乳酸菌・酢酸菌・納豆菌についてご紹介します。

麹菌

 日本の麹菌は「コウジカビ」と言って、私たちの食文化になくてはならない存在です。「味噌」「しょうゆ」「米酢」「本みりん」など日本の伝統的な調味料はもちろん、「清酒」「焼酎」「甘酒」「塩麹」などにもかかわっていて、その重要性から2006年に「国菌」と認定されました。その歴史は古く、平安の時代から麹菌を扱う専門店があり、現代も数軒の専門業者が営業を続けています。
 麹には酵素が多く含まれていて、食材に甘みとうまみをもたらします。代表的なものがでんぷんを分解し糖を生成する「アミラーゼ」で、食材の甘みを引き出します。甘酒や塩麹のうまみがそれにあたります。また、たんぱく質を分解する「プロテアーゼ」は、食材のうまみを引き出したり、肉や魚をやわらかくします。

酵母菌

 酵母菌は、糖を分解して二酸化炭素とアルコールを生成する働きがあり、その発酵の過程でさまざまな香りを生み出します。主に麦麹と大豆で作られる「しょうゆ」は、まず麹菌による発酵で、しょうゆ麹をつくり、次に酵母菌が働いて独特の香味をもたらします。「清酒」や「ワイン」の香りも、酵母菌によるアルコール発酵によって生まれます。また、「パン」がふくらむのも酵母(イースト)によるもので、二酸化炭素を発生させてふくらませ、よい香りをもたらします。

乳酸菌

 乳酸菌は、食品に含まれる糖類を代謝して乳酸を産生し、風味を向上します。酸性が強くなると固まる性質があり、それを利用したのが牛乳に乳酸菌を入れて発酵させた「ヨーグルト」や「チーズ」です。日本に古くからある「漬け物」も乳酸発酵によるもので、野菜などの材料にもともと付着している乳酸菌と、材料に含まれる糖類の作用でできあがります。
 乳酸が増えると他の雑菌が増殖しにくくなるため、保存性が高まります。また、乳酸菌は腸内環境と関係の深い菌としても注目されていて、各方面で研究が進んでいます。

酢酸菌

 人類が作った最古の調味料ともいわれている「酢」は、酢酸菌が生み出す発酵食品です。穀類や果実を酵母菌によってアルコール発酵させ、そこに酢酸菌を加えて発酵すると酸性の酸っぱい調味料ができあがります。酢は殺菌・防腐作用があるため、酢漬けなどにすると保存性が高まります。
 酢酸菌がかかわる食品には、ココナッツミルクを酢酸発酵させた「ナタデココ」もあります。

納豆菌

 その名の通り、「納豆」をつくる菌です。稲わらに多く生息していて、加熱した大豆に加えて発酵させると、たんぱく質を分解してアミノ酸を生成します。その過程で栄養価が高まり、ナットウキナーゼという酵素をつくります。独特の粘りは、うまみ成分のグルタミン酸と多糖類のフルクタンが結合した物質です。

出典:『すべてがわかる!「発酵食品」事典』小泉武夫・金内誠・舘野真知子監修/世界文化社、『醤油・味噌・酢はすごい』小泉武夫著/中公新書