高齢期に入ると、「栄養バランスの取れた食事」の重要性がよく話題になりますね。もちろんバランスは大切ですが、その中でも「エネルギー」、すなわち食事から得られるカロリーが、すべての生命活動の土台であり、他の栄養素を活かすためにも欠かせない「大前提」であることをご存知でしょうか。
カロリーは、私たちが生きていくために不可欠な「命のガソリン」のようなものです。特に高齢者にとって、カロリーのバランスを保つことは、健康を支える体力の土台となり、毎日を活動的に過ごすための大切な鍵となります。
知っておきたい
高齢期の栄養の課題
高齢期に健康を保つための食事で鍵となるのが「栄養バランス」です。これは、加齢による体の変化に合わせて、栄養を過不足なく摂ることを意味します。ここでは、栄養の中でもカロリーのバランスについて押さえておきたい二つのポイントをご説明します。
年齢とともに消費しづらくなる
エネルギー
歳を重ねると、寝ている間も命を維持するために必要な最低限のエネルギーである基礎代謝が自然と低下します。主な理由として、体を動かす筋肉の量が減ることが挙げられます。また、心臓や肝臓といった臓器自体の働きも穏やかになるため、食べた分のカロリーを以前より消費しづらい状態になるのです。
食欲や活動量が減ると
食事の量も低下
一方、高齢になると食事量が減ってしまう要因が多く出てきます。特に、「食べる力」(噛む力や飲み込む力)や「消化する力」(胃腸の働き)が弱くなると、食事を負担に感じたり、もたれやすくなったりします。食欲そのものの低下や活動量の減少なども相まって、毎日の食事量全体が減ってしまう傾向があるのです。
このように高齢期の栄養管理は、「カロリーオーバーになりやすいリスク」と、「食べる量の減少によるカロリー不足のリスク」という、一見矛盾する二つの課題に対応しなければなりません。
必要なカロリー量の目安:
意外に減らない現実
どのくらいのカロリーを摂ればよいのかを知るために、国が示す「日本人の食事摂取基準」を確認しましょう。
体が生命維持や日々の活動のために必要とするカロリー量(推定必要量)は、50代以降減少していきますが、75歳以上であっても一日あたり約2,000kcal(コンビニ弁当約3個分)が必要です。
そのため、日々の食事量が少しでも減ってしまうと、必要なカロリー量を下回る「カロリー不足」に陥りやすく 、知らず知らずのうちに低栄養状態になる危険性があるのです。
だからこそ、「食が細くなった」と感じたら、少ない食事量でもいかに効率良くカロリーを摂るかという工夫が、低栄養や虚弱(フレイル)を予防する上で極めて重要になってきます。
高齢者の食事、
なぜ「カロリー確保」が
基本なのでしょう?
高齢者の食事では、たんぱく質、ビタミン、ミネラルといった栄養素に注目が集まりがちですが、それらを体の中で有効に働かせるためには、土台となる「カロリー」の確保が大前提です。その理由をお伝えします。
・命を守る活動のエネルギー源
カロリーは、心臓を動かし、呼吸をし、体温を保つといった、生命を維持するための基本的な活動(生命活動)のエネルギー源です。このエネルギーが不足すると、生命維持に必要な機能そのものが低下してしまいます。
・他の栄養素が働くための土台
たんぱく質は筋肉や免疫細胞を作る「材料」、ビタミンやミネラルは体の機能をスムーズにする「潤滑油」のようなものです。しかし、これらの大切な栄養素も、カロリーというエネルギーが充分にあってこそ、その役割を果たすことができるのです。
・「低栄養」につながるリスク
低栄養とは、体が必要としているカロリーやたんぱく質が不足し、健康を保つ力が足りなくなっている状態が続くことを指します。
たんぱく質を摂ることも大切ですが、カロリーが足りていない状態だと、せっかく摂ったたんぱく質までがエネルギー源として使われてしまい、本来の役割(筋肉や免疫細胞の生成など)に回らなくなってしまいます。
カロリー不足や摂り過ぎのリスク
一方でカロリーが必要量より多すぎたり少なすぎたりすると、どのような影響があるのでしょうか。
・免疫力低下で感染症リスク増加
カロリーが不足していると、同時にたんぱく質も不足し、免疫細胞(抗体やリンパ球)が十分に作られず、病気から体を守る免疫機能が低下します。また、カロリー不足で体温が下がりやすくなると、免疫細胞の働きも鈍くなります。このため、疲れやすく風邪や感染症のリスクが高まってしまうのです。
・病気やけがからの回復が遅れる
カロリーは、体を動かすエネルギー源であるだけでなく、体の修理やメンテナンスを行うための燃料でもあります。この燃料(カロリー)が不足すると、「命を守ること」を最優先にするため、「けがや病気を治す力」や「血の巡り」といった回復機能が後回しにされてしまいます。
・筋肉量の減少
体はカロリー不足に陥ると、エネルギーを補おうとして、体に蓄えていた筋肉や脂肪を分解して使い始めます 。特に筋肉が急速に減ってしまうことが特徴です。
筋肉が減ると、疲れやすくなり、外出や運動の意欲が低下します。これがさらに筋力低下を招き、転んでしまうリスクを高めるといった悪い循環につながってしまいます。
・カロリー過剰によるリスク
一方で、必要以上にカロリーを摂り過ぎると、肥満や糖尿病など生活習慣病のリスクが高まります。また体重が増えると膝や腰への負担にもなります。高齢者の場合は、カロリー不足(低栄養)のリスクの方が深刻になることが多いのですが、ただ多く食べればよいというわけではありません。運動量と食事量のバランスを取りながら、体に必要な適量のカロリー摂取を心がけましょう。
「今日からできる」!
カロリーと栄養を
効率よく摂る3つの工夫
カロリーをしっかり摂りつつ、他の栄養素もバランス良く摂取するために、日々の食事に取り入れやすい工夫をご紹介します。
1.いつもの食事にプラス!
手軽にカロリーを増やす
「ちょい足し技」
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ミルクティー、甘酒、のむヨーグルト、ココアなどの“飲めるカロリー”を活用
食が細いときでも無理なく取り入れやすい方法です。野菜ジュースや栄養補助ドリンクなど、好みの味を何種類か用意しておくと、楽しみながら続けられます。 -
料理にプラスするだけの“ちょい足し”
味噌汁やポタージュに、粉ミルク、粉チーズ、すりごま、オリーブオイルなどを加える工夫です 。手間は増やさずにカロリー密度を上げることができます。 -
間食を“栄養補給の時間”として活用
プリン、ゼリー飲料、アイスなどを取り入れることで、楽しみながら不足分を補えます。乾いたものより、口どけや消化のよいものだと食べやすいでしょう。 -
3食にこだわらない小分け補給
朝食、昼食、夕食で栄養を摂ることにこだわらず、10時、15時、寝る前などに「小分け補給」をするのも有効です。無理なく食べきれる体験が増え、食への意欲の回復にもつながります。
2.少量でも「栄養」を
ギュッと凝縮する調理の工夫
量がたくさん食べられない場合や、飲み込みにくい場合は、調理の段階でカロリーと栄養を凝縮し、食べやすくする工夫が大切になります。
3.頼れる選択肢!
市販の「介護食・栄養補助食品」の
賢い活用
最近の介護食は、従来のイメージとは大きく変わっています。介護が必要な状態でなくても、食欲がない時や調理が大変な時などに、市販の介護食や栄養補助食品を活用することは、前向きで便利な選択肢の一つです。
<介護食の特徴>
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食べやすい量でも、カロリーやたんぱく質が確保しやすく調理されています。
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カロリーが明記されているので、カロリー計算がしやすくなります。
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噛む力・飲み込む力(嚥下機能)に合わせた形状を選べます。
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温める・開けるだけの製品が多く、ご本人やご家族の食事準備の負担が軽いです。
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洋食、和食、おじやなど、様々なバリエーションを楽しめます。
介護食は「体が弱ってきたときの特別食」ではなく、日々の食事の中で高齢者のカロリーや栄養バランスを手軽に補える便利な一品として活用できます。
食事量が減りやすい時期でも、負担なく必要な栄養を確保できるので、毎日の食卓に取り入れる選択肢としてとても有効です。
まとめ:
元気な高齢期を過ごすために
カロリーは、体を動かす力のもとであり、他の栄養素の働きを支える大切な役割を担っています。
- 第一に、低栄養にならないよう、活動量に合わせたカロリーの目安を意識し、食事量を確保しましょう。
- 食べられない時は、調理の工夫や高栄養な間食(補食)などを活用し、少量でも効率よくカロリーを摂取することが大切です。
大切なのは、「美味しく、無理なく」必要なカロリーと栄養を摂り続けることです。毎日の食事に少しずつ工夫を加え、低栄養を予防しましょう。
【管理栄養士から介護をされている方へのアドバイス】
入院される高齢者の約8割は低栄養と言われております。特に肺炎などで入院された方は退院後もご自身の嚥下・咀嚼に合わせた食事を用意することが難しく、食事量が低下し再入院を繰り返します。
一昔前は生活習慣病の観点から「おやつはダメ!」「揚げ物はダメ!」など考え控える方も多くおられましたが、現在は低栄養を防ぐために「カロリー」をしっかりと摂ることが優先されます。高齢になると出掛けること(活動量)が減り空腹感がなく食事の回数が減少、また独居の場合はおかずを沢山作ると残ってしまうため品数が減ります。
介護食は嚥下・咀嚼に合わせた料理を選ぶことが容易であり、簡単に「ちょい足し」「小分け補給」ができるためカロリーや栄養を補うことができます。
親御さまにプレゼントされてはいかがでしょうか。

【記事監修】
岡村 康平(おかむら こうへい)
所属:医療法人 徳洲会 野田総合病院 栄養科
役職:科長
【経歴】
栄養士養成学校卒業後、東京慈恵会医科大学付属病院の栄養部に入職。集団給食における献立作成、発注、調理、衛生に従事。
入職4年目に管理栄養士を取得し、栄養指導を始め臨床栄養、糖尿病療養指導士取得やNST活動、学会発表などを中心に活動。
大学病院に16年従事した後、特別養護老人ホームの栄養ケアマネジメントを経験。特定健診保健指導を立ち上げるため、現行の総合病院に栄養科と健診センター兼務にて入職、保健師と共に特定健診保健指導を開始。
地域の健康作り促進や栄養科の立て直しなど経て、現在は栄養科長として臨床栄養、管理栄養士養成校の臨地訓練の受け入れおよび外部講師、栄養部門の収支改善等を行う。
【参考文献】
日本人の食事摂取基準(2025年版)(厚生労働省)
令和5年国民健康・栄養調査結果の概要(厚生労働省)
