専門家に聞いた!知っておきたい「口腔ケア」

日本歯科大学
口腔リハビリテーション 多摩クリニック院長菊谷 武先生

“食べること”は人生の最大の楽しみのひとつです。また、「おいしいね」と“言葉を交わし”、“笑顔で過ごす”ことができるのも、健康な口があってこそ。口腔ケアは、そんな楽しみや幸せを支える大切なケアです。ところが、そんな口腔ケアを怠ると、人生の楽しみが奪われ、時には誤嚥性肺炎などの疾病の原因になることもあります。健やかな毎日のために、口腔ケアで清潔な口内環境を保ちましょう。

Vol.1 介護報酬加算の利点は、「ケア技術向上」にあり

高齢化社会に対応する口腔ケアを

口腔ケアへの取り組みを報酬面から推進する「口腔衛生管理体制加算」と「口腔衛生管理加算」ですが、まだ算定していない介護保険施設も見られます。たしかに報酬額と手間が見合わないとか、そもそも人手が足りていないとか施設ごとに理由があると思います。

しかし放っておけばいつか後悔する日が来るかもしれません。なぜなら口腔ケアに求められる技術が、今後はどんどん高度になっていくと予想されるからです。

日本の高齢化がもっと進んだ場合、多くの施設、とくに特別養護老人ホームなどでは、要介護度の高い方々を中心にお世話することになります。

厚生労働省が定める算定基準

口腔衛生管理体制加算

  1. 介護保険施設において、歯科医師か歯科医師の指示を受けた歯科衛生士が、介護職員に対する口腔ケアに係る技術的助言および指導を月1回以上行う
  2. 歯科医師か歯科医師の指示を受けた歯科衛生士の技術的助言および指導にもとづき、入居者または入院患者の口腔ケア・マネジメントに係る計画を作成している

口腔衛生管理加算

  1. 歯科医師の指示を受けた歯科衛生士が、入居者に対し口腔ケアを月4回以上行う
  2. 口腔衛生管理体制加算を算定している

リスクの高い方には、相応のスキルをともなった口腔ケアが必要。さもないと、誤嚥やそれを起因とした肺炎が施設内に蔓延することだってありえます。その時になって慌てても、施設全体のケアのレベルはそう簡単に上げられません。

介護報酬加算を介護スキルアップの好機に

そこで今の内から、加算をスキルアップの好機として利用するわけです。

算定しようとすると必然的に施設内のケアを一から見直さざるをえないので、認識できていなかった課題や悩みが表面化します。

そこを解消していくことで、ワンランク上の口腔ケアを提供できるようになるはず。実際、算定を機にケアのスキルが飛躍的に上がったという施設もあります。

いまや「10年前のケアでは通用しない」と言えるほど、口腔ケアの技術も考え方も進化中です。高度なスキルを要求される時代がやってくる前に、加算を上手に使いながら学んでいってもらいたいですね。

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Vol.2 使い方しだいで効果が見違える、口腔ケア用品

口腔ケア用品の用途を知り、使い分ける

近年の口腔ケア用品は、用途別に様々な種類があります。口腔ケアの重要性が注目されるなかで、目的や好みに応じて選べるよう各メーカーも工夫して開発しているんですね。ただ、注意しておきたいのがそれらの使い方です。

ケア用品をあれこれ持ち変えるのが面倒だからといって、いつでも誰に対しても同じものを使ってしまうと、その効果が半減してしまうこともありうるのです。たとえばスポンジブラシは、歯ブラシに似た形状なのでつい歯みがきにも使ってしまいがちですが、粘膜についた汚れを先端のスポンジでやさしく取り除くためのものです。歯をいくらこすっても表面に付着している細菌の塊(バイオフィルム)までは破壊できません。
また口腔ケア用のウエットティシュも同様に、もともと想定された使い方があります。粘膜の汚れを拭き取ったり、うがいができない方や嚥下障害のある方、あるいは座位をとれない方に歯ブラシでかき出した汚れや細菌を拭き取ることで口の外へ回収する目的でつくられています。

せっかくケアに取り組んでいるのに、思ったような効果が得られないのは、もったいないですよね。ケア用品の用途をしっかり理解して“適材適所”で使えば、ケアの質が上がるばかりか介助自体も楽になるはず。そのためには「まずケアが必要かどうか、必要ならばどんなケア用品が適切か」を口の中の状態を見て判断していかないといけません。それが難しいようなら歯医者さんに来てもらって指導を受けてもいいと思います。

ケア用品の使い方については、メーカーのホームページなどで確認してみるのもおすすめです。知らなかった用途や目的を発見できるかもしれせん。

口腔ケア用品

  • 粘膜ケア用品

    • 口腔ケア用ウエットティシュ
      • ●洗口液が浸してあるので、取り出してすぐに使える
      • ●指で拭くので汚れを取りやすい
      • ●使い捨てで衛生的
      • ●うがいがいらない
    • スポンジブラシ・口腔ケア用綿棒
      • ●口が大きく開きにくい方でもケアしやすい
      • ●指では届きにくい、口の奥の方の汚れも取りやすい
      • ●使い捨てで衛生的
    • 舌ブラシ
      • ●舌の汚れを取るブラシ
      • ●毛が付いているタイプや付いていない樹脂製のものなどがある
  • 歯みがき用品

    • 粘膜ブラシ
      • ●歯ブラシよりもやわらかい毛でできていて、用途に合わせて色々な形がある
      • ●吸引器に接続できるタイプもある
  • 保湿ケア用品

    • ジェルタイプ
      • ●粘度が高く保湿持続効果が長い
      • ●就寝中などの保湿に適している
    • スプレータイプ
      • ●手軽にケアができる
      • ●日中やこまめなケアに適している
    • マウスウォッシュタイプ
      • ●保湿成分配合の洗口液
      • ●口腔内の洗浄(清拭)にも使用出来る
  • ※すべてのケア用品をそろえる必要はありません。腔内の状態や好みに合わせて使いやすいケア用品を選びましょう。

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Vol.3 人生の「食べる歓び」を支える口腔ケア

ずっと歯を残す、という観点からの口腔ケア

80歳で自分の歯が20本以上残っている人、俗に言う8020達成者は5割を超えたと言われています。20年ほど前に比べると大きな進歩ですが、最大の要因は毎日歯を磨くようになったことです。
しかし要介護状態になったり認知症になったりすると、きちんと歯を磨くことが続けられなくなります。それを放っておいた場合ほとんどの方が歯を悪くし、その方の食べる機能を支えていた歯が、見るも無惨に崩壊してしまうんです。全部の歯が半年で根っこだけになってしまう人も珍しくありません。
これは口腔ケアに携わるすべての方にぜひ知っておいていただきたいことなんです。

人間は歯をすべて失ってしまうと、若い頃に謳歌したような楽しく充実した食生活は送れなくなってしまいます。
たしかに今は柔らかくて美味しい介護食もありますが、歯が残っていることが基本的には咀嚼を支えていますし、歯が元気なうちにしか食べられないものも多いですよね。
食事が何よりも好きな食通の方はもちろんのこと、そうでない方々にとっても毎日の「食」は、生きていく上で重要な意味を持った特別なものです。「もし自分がすべての歯を失ってしまったら」「流動食のような食事しかとれなくなったら」と想像してみましょう。
歓びや生き甲斐までも失うような、それこそ味気ない人生だと感じるのではないでしょうか。

口腔ケアというと、口臭や誤嚥性肺炎の予防面がクローズアップされがちですが、「食べる」という人として欠かせない行為を支える意味での口腔ケアも忘れないでいたいですね。

口腔ケアがもたらす好循環

口腔ケアを行うことで、食欲増進や栄養状態の改善、ひいてはQOL(クオリティオブライフ=生活の質)の向上までも期待できます。

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Vol.4 感染症予防に有効な口腔ケアとは?

口の中が汚れていると感染症にかかりやすい

口腔ケアには「感染症の予防につながる」というメリットもあります。もともと口腔内には様々な細菌が住みついていて、汚れた状態を放置しておくと雑菌が増えていきます。これらの菌は唾液中に酵素を出していますが、この酵素にはタンパク質を破壊する作用があるため、口や喉の粘膜が荒れてきてしまいます。するとインフルエンザや風邪のウイルスが、荒れた部分にくっつきやすくなります。そこからウイルスが体内に入り込み感染症を引き起こす、というわけです。つまり「口の中が汚れていると感染症にかかりやすい」ということです。さらに唾液の分泌が少なく、口の中が乾燥しているような方は口腔内に汚れが溜まりやすいため、そのリスクもより高まります。

そこで適切な口腔ケアが必要となりますが、ケア中の誤嚥には気をつけないといけません。たとえば歯をブラッシングすると、一時的に細菌が口腔内に散らばります。それらを含んだ洗浄液や唾液を誤嚥してしまうと、細菌が体内に侵入してしまいます。せっかくのケアが仇とならないように、誤嚥しにくい姿勢に加え、ブラッシング後の洗浄液や唾液は口腔ケア用のウエットティシュで拭き取るなどして細菌を確実に回収したいですね。

高齢者には免疫力の低い方が多いため感染症は大きな脅威です。とくに気温も湿度も低くなるこの季節、インフルエンザや風邪が施設内で流行するのは避けなければなりません。また、口腔内の細菌が気管・肺に入って発症する誤嚥性肺炎も命を落とす可能性のある恐ろしい感染症です。それらの予防のひとつとしても、口腔ケアを有効に活用していきたいですね。

インフルエンザが発症する仕組み

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